派遣労働の現場から見た派遣法改悪の構造と今後の戦い

東京生活者ネットワークでの学習会で派遣向上フォーラム代表、渡辺照子さんをお呼びしました。

渡辺さんはシングルマザーとなった16年前から派遣社員として働いています。理不尽な働き方でも「それしか選べなかった」、「スキルアップする余裕もお金もなかった」また、「モチベーションの醸成が難しかった」これは派遣社員として働いている方には多い働き方だと思います。
かくいう私もそのような働き方で過ごしていました。ある職場で働きだす。お給料をためる。続けられないことが分かり次の職種を探す、三か月ほど働けなかった場合はすべて貯金がなくなる、次の職場で一から働く。
このルーティーンでどうやってスキルアップをしていけるのでしょうか。
それでも資格を取ったとしても、「経験年数」が必要になってくるのです。資格を持っても経験年数がないと働けない。経験がないから資格を取っていても意味がないのです。

不本意就労の結果、自分に自信がなくなり、意欲がなくなります。
私が引きこもりの問題や若者の労働問題に興味があるのはこの働き方や自分を認められない自分が客観的にみると不思議だったからです。不思議だと思ったのは一時の選択、大学卒業の際に就職活動をして正社員になっていないと、卒業した2.3年で正社員の道を選んでおかないとこんなにも正社員として働けなくなるのかということ、また、派遣社員と言いながらも正社員と同じように働かされていながらも、派遣会社や派遣されている会社に意見を言うことを自らやめてしまっていたということでした。そして私はこの働き方を続けていたら、引きこもりになる可能性は高かったと思うのです。あのような働き方を永遠と続けていたらきっといつか働けなくなると感じていました。

非正規労働が毎年増加し労働者の3人に1人は派遣労働者です。
女性の非正規雇用率は過去最高の56.7%です。
非正規労働者増加の理由は労働者サイドは自分の都合のよい時間に働けるから(38.8%)、家計の補助、学費を得たいから(33.2%)などです。自分の都合のよい時間に働けるという回答の理由は、女性は家庭内のケア労働力であるからこういった働き方しかできなのだという認識を私たちは持たねばなりません。
事務所サイドの理由としては賃金節約のため(43.8%)、週の中の繁閑に対応するため(33.9)賃金以外の労務コストの節約のため(27.4%)となっています。
そしてNPO法人派遣労働ネットワークの2013年のアンケートでは派遣を選んだ理由として自分の都合に合わせて働ける(38%)正社員として働ける適当な企業がなかったから(47%)
一方日本人材派遣協会調査では正社員希望が52.1%でした。
このことからも派遣社員の人たちが不本意就労、働けることがなかったから仕方なく派遣になっているという状況を私たちはきちんと認識しなくてはなりません。

そしてこれからは派遣社員自身も声を上げるために発信力をつけていくことが必要です。
派遣労働者を取り巻く環境は貧困という悲惨なドラマを見せて同情や感心するふりをしながらもその下には「侮蔑」「ああはなりたくない」事例として派遣労働者があるということ。「あの人たちよりはいい」という下を見て自分の暮らしを考えてしまうと大切なことに目がいかなくなります。
また、派遣社員自身の意識改革も必要です。
複数の派遣先企業を渡り歩くのが前提の為一つの企業に執着しにくく裁判などになりにくくなります。次の仕事のことを考えて顔出しができなかったり自己責任にされてしまい、派遣労働を選んだのは自分なのだという意識が働いて正当な権利を訴えることができなくなってしまいます。それ以外の選択肢を知らないから今がベストだと思い込んでいたり、選択せざるを得なかった仕事を後付けで自ら評価し以前よりは良かった、今はましと肯定しないと今に適応できなくなってくるなどたくさんの要因があります。

自分の置かれた状況を客観的に判断し、批評的に把握することは精神的につらいことです。
しかしながら自分の置かれた状況を自ら否定しながら働き続けることは難しく精神的にエネルギーが必要なことですが、問題を直視して問題提起を行うことは重要です。「いやだ」「おかしい」「がまんできない」を大事にすることが必要です。自分の困窮状態を話すだけでは「かわいそうな労働者」で終わってしまいます。問題の要因や置かれた状況を自分の周囲だけでなく社会的にも見る視点が必要になってきます。
そして何より大事なのが「個人の問題は政治的な問題」という視点が重要です。自分の立った現場それこそが出発点として派遣労働の理不尽さ、不当な要素とその背景と要因を突き止めなければなりません。
不安定雇用、不安定就労の極みである派遣労働者としてその現状から逃げるのではなく、ただ否定し、無視するのではなくその不利な現状にいるからこそ抱える問題の当事者として自己分析をしつくす、「自己責任の(内面化)」ではなく社会的視点を持って自己分析をしていくことが必要です。

目標はディーセントワークです。「まともな仕事」「価値のある仕事」「働き甲斐のある仕事」。
権利が保障され十分な収入を得ることができ、適切な社会的保護のある生産的な仕事、これは企業の社会的責任でもあるのではないでしょうか。

会社の利益だけを考え、人を大事にしない職場が、どうしていい製品やサービスを生み出せるのでしょうか。
また、マタハラが話題になり、ママの正社員の人達が新しい働き方を獲得していく中で派遣社員として働く人たちがそのママたちの働き方の知りぬぐいをしているというという声を聞きますが、この女性同士の分裂や分断にも惑わされてはいけないのです。一人職場を急用で離れたことによりその職場が回らなくなるような人員体制でしかない会社を糾弾すべきなのです。敵の方向を見誤ってはいけません。
私たちの働き方を考える機会が必要です。
一人一人が自分を大切にしながら働く為にも、権利のために一人一人が声を出し、社会を変革していく力を起こしていかなくてはならないと感じました。

とても勉強になりました。